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人物名

人物名僧 恵南 
人物名読みえなん 
場所 
生年 
没年 

本文

恵南、名ハ忍鎧、号空華子、平安之人也。聞香に長じ一時に鳴ル。連理、焼合セ、五味、七国をきゝしるのみならず、凡物の臭気をきくこと常ならず。或雪の朝雪もてさまざまの物の象を作りて童の持来りしを見て、此兎は某の家のあたりの雪かととふ。童どもしかりとこたふ。傍の人おどろき、香のみならず、雪までも鑒定し給ふやととへば、微笑して、此雪魚臭にほひあれば其家をさし、又其載たる板も臭気あれば其人をしりぬ、其人は魚賈なればといへり。又何某の宮の御殿に紅塵といへる名香あまたたくはへ給ふが、或ル時やゝうせたれば、殿下の御沙汰となり、武辺に仰て捜しもとめ給ふに、恵南其ころ名誉あれば、殿下へめして、聞しらずやととはせ給へども、もとよりしらぬことなれば其旨申あげゝれどもこゝよからず。いかにもして其在所をしらまく思ひしが、東寺の御影供にまうでんと壬生より過る道、一陣の風吹来りけるに、えならぬ香気有リ。いぶかしく其かたをさして行に、島原の廓柏やといふものゝ家なり。彼紅塵の香にたがひなければ、入りて尋るにしるものなし。しひてもとめて人毎にいはしむるに、一人の女の童、此比、某の女郎の櫛笄を作たまふ木屑のありしを、よきにほひする木なれば火桶にくべしが其名残にやといへば、やがて明の日殿下にまうし上けるに、ぬすみしは其廓に遊ぶ士なること分明にて、罪に行はれしとなん。閑田子おもふ。よを捨人のよしなき能によりて罪人の訴人となるはうたてしきことなれども、其能は希代のこと也。此僧、画もよくて風韻あり。和歌をもこ好みし人也。華顛、数首を出されたれども、常調なれば略きて今二首を掲ぐ。

子規頻 ほとゝぎす待し恨もわすれねと此あかつきぞをちかへり鳴く

釈教 法のため歎ざらめや別れ行みちのちまたのひとの迷ひを

寿八十有余にて歿し、とり辺山に収む。

図版